ネットワーク思考 〜 IQ からWeQへ

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11月7日、ベルリンのアリアンツ・フォーラムで開かれたソーシャルイノベーション・イベント、WeQ worksに参加して来ました。

 

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WeQって何かって?

 

それはベルリンに創立された社会的企業およびそのインパクト戦略研究所、genisis (Institute for Social Innovation and Impact Strategies)が提唱する、新たなキーワード。IQに変わってこれから世の中を変えていく動力となる、We Qualityを略したものです。

 

IQは個人の知性を測る尺度ですが、世の中がますます複雑になって行く今の時代、特定の個人の知性だけで解決できる物事はほとんどなくなりました。世界は細分化され、それらが複雑に絡み合い、全体像を見渡すことは困難です。一人の人間が多くの分野において深い知識とスキルを持つこともまずできません。

 

そんな時代に重要度を増しているのは、コラボレーションの力。異なる分野やスキルを持つ多くの人が繋がり、協力して問題を解決していく。IQではなくWe Qualityが求められる時代だというのです。個人が周囲と競争して勝つのではなく、個性ある人たちがネットワークを構築し社会を変えるという方向性をGenisis Instituteは“WeQ – more than IQ“のキャッチフレーズを掲げ、提唱しています。

 

このイベントではWeQ Foundation創始者のペーター・シュピーゲル氏を初めとする複数の登壇者の講演の他、グループに分かれてのワークショップ、そして現在欧州で大きな課題となっている難民支援に関する数々の取り組みが紹介されました。

 

中でも非常にエキサイティングだったのは、ウルリッヒ・ヴァインベルク教授のスピーチでした。ヴァインベルク教授は、ソフトウェア企業SAP創始者の一人、ハッソ・プラットナー氏がポツダム市に設立したハッソ・プラットナー研究所(HPI)付属、School of Design Thinkingの学長です。HPIおよびSchool of Design Thinkingといえば、ドイツ国内では最先端の最先端、世界中から大志ある学生が集まることで有名です。

 

スピーチのタイトルは、“Network Thinking: Was kommt nach dem Brockhaus-Denken?”(ネットワーク思考 〜 百科事典的思考の後に来るものは?)

 

ヴァインベルク教授は、知識が分野ごとに整理され並列に並べられた百科事典が象徴する、整理された知見の中に解を見出そうとするこれまでの思考法は、今後、ネットワーク思考により置き換えられて行くだろう、と述べました。ネットワーク思考というのは、型に嵌らず、従来の分野の枠を超え、人々が学際的に繋がり、未だない解を創造していくことを意味します。多様化し複雑化する世界の様々な課題の解決法はもはや既存のものの中に見つけることはできない。できるだけ早く百科事典的思考から脱却し、ネットワーク思考へと発展して行くべきだと、とても熱いスピーチでした。

 

大変刺激的でワクワクするスピーチだったので、早速、著書を買って読みました。

 

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この本にはインスパイアされますよ。ネットワーク思考が実際に社会をどう変えて行っているのか、2007に創立されたSchool of Design Thinkingの学生達の社会的プロジェクト例を紹介しながら説明していますが、どのエピソードも凄い。同校では学生個人個人に成績をつけるのをやめました。いわゆる学業カリキュラムも単位もありません。IT・生物学・ジャーナリスム・心理学・経営学・エンジニアリング・法学・医学等、あらゆる学科の学生を数名のチームにし、企業や役所からの「こういう問題があるのだが、解決法を見つけて欲しい」という依頼を受け、実際に手を使ってプロトタイプを作成しながらソルーションを提供して行きます。その解決法の見事なこと!

 

いくつか例を挙げますと、

  • 南アフリカの農村に住む人々が携帯電話を使って政府の無料健康診断を効率よく受けられるようにするシステムの構築。(南アフリカの農村部は交通インフラがあまり整備されておらず、医療サービスをなかなか受けに行くことができません。そこで政府は農村部への看護婦派遣サービス「モバイル・クリニック」を開始しましたが、農民をまず畑まで迎えに行かなければならないなど非常に効率が悪い。そこで学生チームは、南ア国民のほとんどが持っている携帯電話を使い、農民が看護婦が何時に村のどこに到着するかを知らせるメッセージを着信できるようにしました。

 

  • 空港のセキュリティチェックを簡便・快適にするトロリーのデザイン。(空港でのセキュリティチェックのさいには上着を脱ぎ、時計やベルトを外し、デジタル機器を鞄から出し、それぞれをトレーに入れてコンベアに載せなければならず、時間がかかって面倒です。これをもっと楽にできないかと、学生チームはセキュリティ用の個人トロリーを考案しました。車輪のついたスツールにラップトップPCを入れるボックス、アクセサリー・携帯・鍵などを入れるボックスや上着をかけるフックをつけました。チェックする物品が一目でわかります。座面にはクッション。カートのようにセキュリティゲートへ押して行くことができ、列に並んでいる間は座って待つことができます。カートごと通せるスキャンゲートがあれば、わざわざコンベアベルトに物品を載せる手間も要りません。このアイディアは空港関係者に大変好評だそうですが、資金面でまだ実現はしていないそうです)

 

  • 刑務所に収容されている受刑者が家族や友人とEメールで連絡を取り、ウィキペディアなどを利用できるタブレットのコンセプト。(現在、受刑者にインターネットの利用を許可している刑務所は欧州にありません。しかし、現在の情報化社会において受刑者を長期間インターネットから遠ざけておくことは、出所後の社会復帰の妨げになるのではないか?という問題があります。そこで、学生らは受刑者用に特殊なタブレット型通信システムを作ったらどうかと提案し、プロトタイプを作成中です)

 

本書ではまだまだ数多くの事例が取り上げられていますが、ここでは紹介し切れません。デジタル化時代に教育はどう変わっていくべきか、企業はどう対応して行くべきか等、たくさんのヒントが詰まった良書です。

 

最後にヴァインベルク氏の言葉をいくつか引用します。(拙訳)

古い構造を「リーン」にしたり、最適化するということではありません。古い構造と別離する、そう、完全に別離し、ますます高まる複雑性に対応することを学び、そこに潜むチャンスを発見していくのです。チャンスはネットワークの構造の中で思考することで生まれます。最初は既存のビジネスの脅威となるかもしれません。しかし、企業は抜本的な改革を行わずには新しい時代に成功を収めることはできないと優秀な人々は気づいています。「ちょっとだけ改革」というのはありえないのです。(p.32)

 

直線的な思考は多くの時間を要します。創造的な人々は迅速なプロセスの価値をわかっています。すぐに試すこと、すぐにフィードバックすることが展開のスピードを高めるのです。(p.39)

 

これまでの直線的な思考について語ることから始めましょう。分野ごと、ビジネス部門ごとの思考、きっちりと組織化された思考が今日まで何をもたらして来たか。そうした思考法は何十年にも渡って私たちに安心を与えて来ました。人はそれぞれ自分の範囲を持ち、その範囲の中で心地よくやっていくことができたので、それ以外は必要ありませんでした。しかし今日、それだけでは足りません。そして明日は、もうそれだけではやって行くことができないのです。これからも古い思考法のまま未来のテーマを考えようとする人は、失敗します。(p.41)

 

今回のソーシャルイノベーションのフォーラム、そしてヴァインベルク氏の著書の中で私が受け取ったメッセージは、以下に尽きます。

 

常識に縛られない。やる前から無理だと諦めない。問題にはきっと解決法があると考える。世の中には潜在するチャンスが無限にある。

 

みなさんは、どうお考えになりますか?

 

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