謎の火山をめぐるミステリー 〜 科学ドキュメンタリー「Rätselhafter Vulkanausbruch (Le mystérieux volcan du Moyen Âge)」要約

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先日、独仏共同出資のテレビチャンネル、ARTEで「謎の火山噴火(Rätselhafter Vulkanausbruch)」という科学ドキュメンタリーを見ました。13世紀に大噴火を起こし、地球全体の環境にとてつもないインパクトを与えた知られざる火山を突き止めるという内容で、とても興味深いものでした。約50分間の番組の中で雪氷学者、火山学者、地質学者、物理学者、気象学者、人類学者、生物学者、歴史学者など、あらゆる分野の研究者らがバトンを渡すように研究を引き継ぎ、答えへと近づいていきます。30年以上の年月を経、ついに謎が解明するまでの展開が壮大なる学術ミステリーのようでワクワクしながら一気に見てしまいました。

フランス語の原題は”Le mystérieux volcan du Moyen Âge”。残念ながらフランス語かドイツ語のどちらかでしか見られないので、日本語で要約紹介します。少しでも面白さが伝わるといいのですが。

 

13世紀半ば、地球のどこかで火山が爆発した。その規模は途方もなく大きく、地球全体の気候を狂わせ、各地でヒトを含めた生物の大量死をもたらした。しかし、その火山の名も場所も、知る者はいなかった。それは一体どこにあるのだろうか?過去30年間に渡り、世界中の科学者が謎の火山を探し続けていた。

事の発端は1970年代の末に遡る。過去の地球環境を調査するため、雪氷学者らがグリーンランドで氷床コアを掘削した。コアと呼ばれる地層サンプルにはその場所の過去の環境変化が刻まれている。掘り出したグリーンランドのコアにはところどころ硫酸塩の堆積が見られた。各層の年代を測定したところ、硫酸塩を含む層の年代は過去の大規模な火山噴火と一致することがわかった。その中でとりわけ硫酸イオンの濃度が高かったのは1259年の年層で、過去1万年間に起きた他の火山噴火と比べて桁違いの規模の噴火だったことが見て取れた。しかし、1259年に地球のどこかで火山が噴火したという記録はどこにもなかったのである。

その数年後、今度は南極でコア掘削が行われた。このコアを化学分析すると、グリーンランドのサンプルと同様に1259年に顕著な硫酸イオンのピークが見られた。この二つのサンプルに見られる硫酸イオンのピークは同一の火山の噴火によるものなのだろうか。それとも同時期に複数の火山が噴火していたのか。両コアに含まれていた微細な灰を取り出して比較したところ、それらは形状も化学組成も全く同じだった。北極と南極に降り積もった灰は同じ火山から降り注いだものだったのだ。地球の両端まで灰が到達していることから、問題の火山は熱帯に位置していた可能性が高い。しかし、熱帯にある火山の数は膨大だ。特定するのは極めて困難である。

最初の手がかりはカナダ、ケベック州のトウヒの森で見つかった。森は湖を取り囲むように広がっており、湖の底には枯れたトウヒが沈んでいる。水の中から木を引き上げ年輪パターンを分析すると、1258年から成長が急に鈍化していたことがわかった。同様の木の成長パターンはカナダの森だけでなく、モンゴルなど他の地域でも見られた。13世紀半ば、地球全体が寒冷化していたのだろう。

20世紀最大規模の火山噴火、フィリピン・ピナトゥボ山噴火の研究から、火山灰が地上20km以上の高さまで吹き上げられると、地球全体の気候に大きな影響を与えることがわかっている。大気中に放出された硫黄ガスが成層圏で水蒸気と結びつくとエアロゾルが生成される。エアロゾルは太陽放射を散乱・吸収するため、地表に到達する太陽光が減少してしまい、その結果、地球の平均気温が下がる。エアロゾルの雲はゆっくりと成層圏を拡散し、約3年間、残存する。つまり、謎の火山噴火は1257年に起こったとみなすことができる。

さらなる手がかりはロンドンで見つかった。1999年、スピタルフィールズの工事現場で大量の人骨が発見されたのだ。その数は1万体ほどもあり、発見当初は14世紀のペスト流行の被害者ではないかとされた。しかし、放射性炭素を使った年代測定で骨はそれよりも100年も古いものであることがわかり、ペスト死因説は否定された。骨には襲われた傷跡が見られず、戦争時の大虐殺も考えられない。では一体、何が死因だったのか。発見された人骨の多くは歯の状態が非常に悪く、栄養失調だったことが見て取れた。食べるものが十分になく栄養が不足すると抵抗力が弱まり、感染症にかかりやすくなる。インフルエンザなどの感染症が蔓延し、短期間のうちに多くの人が命を落としたのではないか。

その答えの鍵はロンドンの修道士で歴史家のマシュー・パリスが13世紀にしたためた「大年代記(Chronica Majora)」にあった。そこには1257年及び1258年が冷夏であり、農作物が不作だったという記述が残されていたのである。これをきっかけに歴史学者がヨーロッパ中の歴史文献を当たった。その結果、寒冷化はロンドンだけでなく、ヨーロッパ全体で生じていたことが明らかになる。ドイツのシュパイヤーに保管された僧侶による記録には13世紀半ば、数年に渡って極端な冷夏が続いたと記されている。その異常に寒い年は「Munkeljahr」と描写されたが、Munkeljahrとは古いドイツ語で「暗い年」を意味する。また、同時に「霧の年」という意味も持つ。その頃、ドイツの空はエアロゾルの雲で霞んでいたのだろうか。

ヨーロッパだけではない、同時期、日本もまた大飢饉に見舞われていた。歴史書「吾妻鏡」には1258年に災害が頻発し、多くの人が命を落としたと書かれている。異常気象は世界的な現象だった可能性が濃厚である。

しかし、それだけの激しい気候変動を引き起こした火山はどの火山だったのか?大噴火の跡が地球のどこかに残っているはずである。熱帯の火山のうち、メキシコのエル・チチョン火山やエクアドルのカルデラ湖、キロトア湖が候補に挙がったが、いずれも条件が一致しない。火山学者らが次に注目したのはインドネシアの火山帯だった。直径約6km、深さ1kmというクレーターの大きさと軽石の堆積を条件に絞り込み、目星をつけたのはロンボック島のリンジャニ山。巨大なカルデラ湖を持つ活火山である。また、ロンボック島には軽石の大規模な堆積層があり、その中から見つかった黒焦げの木の幹の年代を測定すると、噴火の年代は1163年から1264年の間と割り出された。地形学者が噴火時の火山の3Dモデルをシミュレートし、火山の高さは約2800m、噴出した物質の量はおよそ40立方メートルにも及んでいたことが判明した。79年にイタリアの古代都市ポンペイを地中に埋めたヴェスヴィオ火山の噴火の100倍の規模である。しかし、そのような天文学的な噴火を起こした火山を記す地図がどこにも存在しないというのは一体どういうことなのか。

ロンボック島の首都マタラムにはMuseum Negeri Nusa Tenggara Baratと呼ばれる古文書資料館がある。ここには古代からのインドネシアの歴史と神話をヤシの葉に綴ったババットと呼ばれる文献が保管されている。全部で1300冊あるというババットの一つ、ババット・ロンボックはロンボック島で13世紀に起きた火山噴火を記録していた。このババットによると、噴火したのはリンジャーニ山のすぐ横にあった別の火山で、その名はサラマスといった。サラマス火山の噴火により、古代帝国の首都、パマタンが消滅したという記述もある。その頃、ロンボック島には未知の帝国が存在していたのである。ポンペイが地中に埋まってしまったように、パマタンも忽然と消え去ったのだろうか?そして、サラマスは本当に世界中の科学者たちが探し求めている謎の火山なのだろうか。

サラマスの大噴火はきっと津波を引き起こしただろう。ロンボック島から東に15km離れたスンバワ島の地形を調べると、津波の痕跡のある崖が見つかった。シミュレーションにより、津波はスンバワ島方面だけでなく、ロンボック島の北側や西側へも広がっていたらしいことがわかった。そして、火山灰の雨はバリ島を超えてジャワ島にも降り注いでいたようだ。実際、リンジャーニ山から西へ600km以上離れたジャワ島のムラピ火山付近にサラマス火山由来と見られる軽石の層が見つかった。軽石の大きさから火砕流が吹き上げられた高さを計算することができる。なんと地上43kmにまで達していた。軽石は小さな結晶を含み、その中のガラスを分析したところ、放出された火山ガスの量は1億5800万トンに及んでいたことが判明した。これまで過去1万年において最大の噴火とされていた1815年のタンボラ火山噴火の2倍の規模である。

氷コアに閉じ込められた硫酸塩がサラマス火山の噴火によるものであることに、もはや疑いの余地はなさそうだ。確定のための最後のステップは、コアの中の灰と軽石の中の灰を比較することだ。両者を顕微鏡下で見比べると、形態的な特徴はマッチしていた。では化学的にはどうだろうか?はたして両者のクロマトグラフは完全に一致した。これでとうとう、サラマスが謎の火山だったことが証明されたのだ。この後、ロンボック島では噴火の跡を残す地層も発見された。

地球上の様々な場所で証拠を集め、各分野の学者の思考力とスキルが総動員され、ついに解明した謎。壮大なる知の冒険はこれで幕を閉じたのだろうか。いや、物語はここで終わりではない。サラマス火山の麓にあったという知られざる古代都市パマタンはどこに消えたのか。それを解明する新たな挑戦が今、始まっている。

 

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