動物実験代替法の開発 ドイツの現状

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画像: BALB/c (WIkipedia: Laboratory mouseより)

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昨今の科学の進歩、とりわけライフサイエンス分野の進歩は目覚ましく、医療の進歩により寿命がますます延びているのは嬉しいことですね。

しかし、ライフサイエンスを中心とした研究開発は動物実験によって成り立っているという現実があります。私たちが使う医薬品や化学薬品の安全性は動物に投与して反応を見ることで確認されますし、医学の基礎研究においても、新しい知見を得るためには動物を犠牲にしなければなりません。私も仕事で動物実験に関する資料を訳すことがありますが、「ラットにこれこれをしたら、こうなった」という文章など、普段は淡々と訳しているものの、ときどきハッとして死んでしまった動物のことを考え、ちょっと辛くなったりします。

ドイツの公共テレビ放送には質の良い科学番組が多くあるのですが、中でも私の好きな科学啓蒙番組「Quarks & Co.」(西ドイツ放送局、WDR)では先週、動物実験がテーマでした。

 

番組によると、動物を使った実験は減るどころか年々増加していて、ドイツ国内だけでも動物実験の登録件数は1990年には1,825 215件だったのが、2013 年には2,997,152件と大幅に増えているそうです。その内訳は、

 

マウス            2,199,671件

ラット               375,656件

魚                     202,685件

ウサギ                 95,353件

ブタ                    12,863件

イヌ                      2,842件

 

このの数字は実験によく使われる主な動物のみで、他にもサル(年間2,000匹以上)やヒツジなどもっと多くの動物が犠牲になっています。ドイツでは動物実験を行うには許可が必要ですが、動物実験に関する規制は国によってまちまちで、許可の義務がない国もあるので、世界中でどれだけの数の動物が実験に使われているのか、はっきり把握されていないのが現状のようです。

動物実験は申請すれば簡単に許可されるというものではなく、許可の基準を設定するための国際原則として、「3Rの原則」というものがあります。3Rとは、

  • Replacement (代替) 動物を使う以外の方法がある場合、その方法を使いましょう
  • Reduction (削減)  実験に使う動物の数をできるだけ少なくしましょう
  • Refinement (改善)  実験における動物の苦しみをできるだけ小さくしましょう

 

絶対に動物実験を行ってはいけないとなると、私たち人間はとても多くのものを放棄しなければならなくなり、現実的でないように思いますが、動物に苦痛を与え、命を奪うことは最小限に抑えたいものですね。

医薬品の開発や医療の基礎研究などではやむを得ないとしても、どうしても必要なわけではないもののために動物に苦痛を与えることは倫理的でないと、ドイツでは1998年から化粧品の開発に動物実験を行うことが禁じられていましたが、2004年からはこの規制がEU全体に拡大されています。

 

しかし、アンチエイジング施術として人気の「ボトックス」、つまりボツリヌス毒素を使った製剤の毒性試験には、1製品ユニットあたり100匹ものマウスが使われているのだそうで、ドイツで2013年に許可申請が出されたマウスの数は全部で約15万匹でした。そして、その半分はその実験で窒息死してしまいます。そんなにたくさんのマウスを死なせてしまうのは、毒性試験にLD50という指標が使われているから。これは毒素を投与された動物の半数が死亡する用量を「半数致死量」としていることを意味します。つまり、100匹のうちの半分のマウスが死ぬ毒素の量とはどれだけかを見る試験なのですね。

「美容のためにマウスを使うのは許可されるの?」と一瞬首を傾げましたが、ボツリヌス毒素製剤はもともと医薬品でした。「医療のためにはしかたなく」動物実験で安全性を確認して製品化されたものが、美容の目的にも使われるようになったのですね。

「ボトックス」を製造販売している米アラガン社では動物実験をしなくても済むように代替試験法を開発し、使用しているのだそうですが(詳しくはこちらから)、ボツリヌス毒素製剤にはいくつか種類があり、残念ながらこの代替法はアラガン社の製剤にしか使えないため、ドイツでは使用されていないそうです。

 

うーん、、、どうにかならないのでしょうか?

 

と思って調べてみたところ、ドイツ政府は動物実験に使われる動物の数をできるだけ減らそうと、代替法の開発研究を支援していることがわかりました。ドイツ連邦教育・研究省のサイトによりますと、ドイツ政府は1980年からこれまでに450以上の代替法研究開発プロジェクトに総額1億4500万ユーロを補助金を出しているようです。

また、フランクフルトにあるStiftung der Erforschung von Ersatz- und Ergänzungsmethoden zur Einschränkung von Tierversuchen(動物実験を制限するための代替法および補助法研究基金、SET)も、代替法研究プロジェクトの支援を行っています。SETが支援している代替法開発プロジェクトの一つには、ポツダム大学のProf. Gerhard Püschel氏のボツリヌス毒素試験法があります。

ボツリヌス毒素の活性評価のための培養細胞を使ったin-vitro試験法(ドイツ語)

 

ボツリヌス毒素というのは、活性サブユニットと結合サブユニットという2つのサブユニットを持つタンパク質です。ボツリヌス毒素がヒトや動物の体内に取り込まれると、結合サブユニットが神経細胞の受容体と結合し、活性サブユニットが切り離されて細胞内に入り込みます。神経細胞は刺激を受けて興奮すると神経伝達物質を放出しますが、ボツリヌス毒素が侵入すると神経伝達物質であるアセチルコリンの放出が阻害されます。その結果、筋肉が収縮しなくなったり、汗が出にくくなったりします。ボトックス注射というのはこれを利用して、筋肉を動かなくし、シワをできにくくするのですね。

Püschel教授の開発した代替法は、ヒトの培養神経細胞にボツリヌス毒素を加え、細胞の反応を見ることで毒素の活性を評価するものです。ここで重要なのは、神経伝達物質と同じ働きを持ち、発光する物質を培養細胞に加えること。どんな物質かというと、人工的に改変したホタルの酵素です。このホタルの酵素は細胞が興奮し、伝達物質が放出されるときに一緒に放出され、光を放ちます(ホタルですからね)。この光の量を測定することで、細胞から伝達物質がどのくらい放出されたのかが推定できます。ボツリヌス毒素により細胞のこのメカニズムが阻害されると伝達物質が放出されにくくなるので、光の量が少なくなるというわけです。アラガン社の代替法と異なり、この方法はすべての種類のボツリヌス毒素の試験に使うことができるそうです。(ホタルだって生き物じゃないか、マウスが死んだらかわいそうだけどホタルはかわいそうじゃないのか?という指摘があるかと思いますが、それはここではとりあえず追求しないことにします)

画期的なメソッドに思えるのですが、プロジェクトの資金が底を尽いてしまったため、実用化には至っていないとのこと。政府に援助を求めたところ、ボツリヌス毒素製剤の国内大手が今年から米アラガン社の製法を採用することになったため、試験の代替法もアラガン社が開発したものを使用すればよい、ということで却下されてしまったようです。残念です。

動物実験の代替法がなかなか普及して行かないのは、主にコスト面での問題が大きいのですね、、、。

しかし、動物も無限にいるわけではありません。動物に苦しみを与えなければならないということは、それを実施する人にとっても辛いことですし、ペットを飼っている人だったら、自分の可愛がっている動物を実験に提供してくださいと言われても、到底出せるものではありませんね。

 

早く有効な代替法が多く開発され、実験に使われる動物の数を減らすことができるようになればと思います!!

 

参考:

Quarks & Co.(この記事の元となった番組が見られます)

諸外国における動物実験の規制

ドイツ連邦教育・研究省のサイト 動物実験代替法に関するページ

Stiftung SETのサイト(英語ページあり)

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