複数の言語を話すのは脳にいい? 最近の研究でわかったマルチリンガルのメリット

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私の住むドイツでは、街を歩いていて国語であるドイツ語以外の言葉を耳にすることが少なくありません。

 

とりわけ首都ベルリンでは英語を耳にする機会がとても多く、それ以外にもポーランド語、ロシア語、トルコ語、中国語など様々な言葉が聞かれます。

 

バイリンガル、またはマルチリンガルに育つ子どもはだんだん増えており、いまやドイツの小学生の半数がバイリンガル、もしくはマルチリンガルだそう。アフリカやアジアには複数言語の運用が当たり前の国もあり、世界全体ではマルチリンガルがモノリンガルを上回ります。

 

(Image: Alice Ayame/Flickr)

(Image: Alice Ayame/Flickr)

 

複数の言葉が話せると、自分の住む国以外の人とコミュニケーションが取れる外国の情報を直接入手できるという明らかなメリットがありますが、そうした直接的メリット以外にも複数言語の運用には様々な「副作用」があることが最近の科学研究から明らかになって来ました。

 

Die Welt紙に“Wie Mehrsprachigkeit unser Gehirn veraendert“(複数言語の使用は脳をどう変えるか?)という興味深い記事が掲載されていましたので、その内容を簡単にご紹介します。

 

マルチリンガルは社会性が高い?

 

シカゴ大学心理学科でこんな実験が行われました。被験者の子どもに「そこの小さい車を取って」と指示し、テーブルに置かれた3つのミニカーのうちの一つを取らせる。しかし、「そこの小さな車」が3つのミニカーのどれなのかははっきりしない。一番小さいミニカーは試験者からは見えない位置にある。子どもは一瞬迷い、3つのうち2番目に小さいミニカー、つまり、試験者から見た一番小さい車を手に取る。

 

この実験でテストしたのは、「他人の立場になって考える」能力。その結果、マルチリンガルの子どもは、他者の立場に立って考える能力がモノリンガルの子どもに比べて高いことがわかったそうです。

 

マルチリンガルの子どもは日常において複数の言語で意思の疎通を図らなければなりません。そのため、他者の意図を理解する能力がよく発達するのだと、同実験を実施した心理学研究者、Katherine Kinzler氏は説明しています。

 

 

マルチリンガルの脳は効率が良い?

 

外国語としてのドイツ語学習について研究する ミュンヘン大学のClaudia Maria Riehl氏は、マルチリンガルの人は一つの言語を話すとき、 他言語を抑制している、つまり脳内の言語システムをコントロールしていると述べます。マルチリンガルの人は言語を切り替えることで、認知をコントロールする能力がものリンガルの人よりも高まると考えられています。

 

これまでの研究から、マルチリンガルに育つ子どもは脳の言語中枢に灰白質 が多いことが明らかになっています。これはすなわち、これらの脳の部位における神経細胞の多さを意味します。

 

複数の言語を使用することで尾状核(Nucleus caudatus )と 前帯状皮質(Anterioren cingulären Cortex)という二つの領域の働きが高まりますが、これらの領域は言語運用だけでなく、 集中力や問題解決力、共感力、衝動性の抑制などにも関わっています。

 

難しい問題に直面し、決断を下さなければならないとき、マルチリンガルの人はモノリンガルに比べ、前帯状皮質の活性が低いそうです。つまり、マルチリンガルの人は決断を下すのに、それほど多くのエネルギーを要しないということになりますね。

 

 

マルチリンガルは高齢になっても脳が元気?

 

ブラウンシュヴァイク工科大学の言語学研究者Holger Hopp氏によると、マルチリンガルのこうしたメリットは生涯に渡って続くとのこと。特に、脳が急激に発達する幼少期や、逆に脳の機能が次第に衰える高齢期にその効果が著しいそうです。

脳が急激に変化するとき ーー それが発達であっても老化であってもーー、尾状核と前帯状皮質における神経細胞の密度が高いことは脳の効率を高めます。

痴呆症において神経細胞の死滅が始まるのは、まさにこの領域。ですから、神経細胞が多ければ、それだけ病気の進行を遅らせることができるのですね。 こうしたことから、マルチリンガルの人はモノリンガルの人に比べ、痴呆症の発症時期が最大で5年ほど遅いと考えられています。

 

 

モノリンガルに育った人は損してるの?

 

日本では多言語環境で育つ人はごくわずか。日本語のみで育てられた自分は損しているの?と残念に感じる人もいるかもしれません。

でも実は、マルチリンガルの メリットは、生まれたときから複数言語に触れる環境で育つ子どもだけでなく、大人になってから外国語を習得する人にも当てはまるようです。

 

マルチリンガルの定義は近年、拡大されており、マルチリンガルとは「複数の言語を通じた体験をすること」であると考える専門家が増えています。つまり、重要なのは複数の言語間を行ったり来たり、脳を切り替えることなのですね。

 

Riehl氏によると、「マルチリンガルとは複数の言語間を柔軟に、大きな困難を伴わずに切り替えられるすべての人」であり、それらの言語を習得した時期や習熟度はあまり関係がないそうです。

 

成人してから外国語として第二の言語を学んでも、訓練によっては最初からバイリンガルで育った子ども以上に豊富な語彙を獲得し、流暢に話すことが可能で、またその場合にも、言語間で脳を切り替えることで認知コントロールの能力がアップするそうですよ。

 

 

しかし、メリットが十分に発揮されないことも

 

しかし、マルチリンガルの子どもが必ずしも全員、そのメリットを十分に発揮するわけではないようです。

エアフルト大学の研究者Annick De Houwer氏が5000人のマルチリンガルの子どもについて調査したところ、バイリンガルに育った子どもの25%は そのうちの一つしか能動的に話さないことがわかりました。

 

これは私の個人的な経験からも納得できます。「子どもの頃からバイリンガル環境にいれば、自然に両方完璧になる」と言われますが、実はそう簡単ではありません。一つの言葉を習得するには、本人にその意思があること、そしてその意思が活かされる機会が不可欠です。

 

マルチリンガルの移民の子どもの中に、学校でうまく能力が発揮できないケースが見られます。Hopp氏は、学校教育においてマルチリンガルであることがプラスとして歓迎されず、むしろ学校での学びを妨げるマイナスと見られがちなことに原因があるのではと述べています。

 

日本では「あまり早くから学校で英語を教えると、日本語がおろそかになるのでは?」「英語で大学の授業をすると、学生の理解力が落ちるのでは?」と懸念する声がよく聞かれます。

 

でも、長い目で見れば、複数の言語を運用することで得られるものは多いのではないでしょうか。今後の議論において脳科学研究により明らかになった様々なメリットが考慮されるとよいですね。

 

参考

Wie Mehrsprachigkeit unser Gehirn veraendert

 

 

 

 

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